2017/11/20 21:57

鳳凰単叢は香りが魅力のお茶ですが、一口で「鳳凰単叢」といっても色々な香りがあります。広東省地方標準の地理標志産品 鳳凰単叢茶には10種類の香型が記載されており※、一般的には「十大香型」と呼ばれています。十大に分類されない物ももちろんありますので、もっと色々とあるわけです。
しかも同じ芝蘭香型といえど、当店の竹葉と芝蘭香ではこれまた香りが違います。
さて、なぜこのように様々な香りが有るのでしょうか?

----写真:鳳凰単叢 烏崠山大庵産 夜来香--


お茶の木の増やし方は、今は主に2種類の方法が有り、
1. 種から苗を作る
2. 挿し木で苗を作る
ことで、新たなお茶の木の苗を増やします。
しかし昔は挿し木の技術がまだ無く、1の種から増やすことしかできませんでした。
1950年代後半から苗床や苗ポットなどに種を播いて育成しその後に畑へ移植するようになりましたが、それ以前は畑に種を直まきしていたとのことです。

種から増やすと親と香りが違ってきます。
特にお茶の木は自家受粉が非常にしにくいため、基本的には別の木との授粉となります。
そうすると子の茶の木は2つの違う親木の特性を引き継ぐことになります。
遺伝的に現れやすい特性、現れにくい特性がありますので、ほとんど親と同じ香りになる木もあれば、全く違う香りになる木もできるわけです。
これが鳳凰単叢の香りが多様になる理由です。

そうすると1本1本香りが違うのであれば、「~~香」と言っても違う香りなのでは?となりますよね。

まず1つめとして出てくるのが1970年代に導入された挿し木、接ぎ木の技術です。
挿し木であれば、完全に母樹と同じ遺伝子になります。もちろん木の年齢で微妙な違いは出てきますが遺伝子が全く同じであるので数年程度の違いで判別はできません。
接ぎ木は既に生えている木を切ってしまい、残った根に母樹の枝葉をくっつけます。そうするとほぼ完全に継いだ枝葉の母樹と同じ遺伝子になり香りも同じになります。
これにより黄梔香であれば黄梔香の母樹と同じ遺伝子を持った若木をいくらでも増やせるようになりました。
今、普通に「~~香」を購入した場合は、このような挿し木、接ぎ木で増やした木々から作られたお茶のため、同じ方向性の香りとなります。
ただし木の年齢、栽培場所(地味、高度)やその年の天候の影響、摘採時期・時間帯、製茶技術の違いなども有りますので、もちろんその違いはお茶に出てきますのでご注意ください。

この接ぎ木のおかげで、人気の無い香りの木や、種から育てたけどあまり良い香りにならなかった木、などは切られて人気品種の台木として接ぎ木されてしまうようです。
今のところ挿し木、接ぎ木で増やした木は1960年代後半以降のため、古樹や老叢を名乗るのは厳しいように思います(どんなに古くても50年前後)。

2つめとして、種から育った木の場合は、製茶して十大香型に区分できる特徴を持っている香りになった場合はその区分された香型の名前になります。
そのため老叢黄梔香というお茶が売ってた場合は、老叢を名乗れるくらい古い時代に種で増やされた木で、製茶したら黄梔香型の特徴を持っていた木というわけです。
また種から植えて独特な香りになった木は、その木の茶葉のみで製茶し「単株」(一本の木の意味)として売られます。
私が個人で持っていた「古樹単株」は十大香型には分類されていない物でしたが、非常に美味しくお茶会でもかなり好評でした。
また私の仕入れ先のお茶屋さんでは新たに「辛美人」という名前を付けた木を持っています。香りはツンと鼻に来る感じですが嫌みはなく名前通りの香りでした。

長々と書いてきましたが、ポイントとしては以下2点です。
・種から育てると親と違う香りになりやすい、そのため鳳凰単叢の香りは色々ある
・今はほとんど挿し木、接ぎ木のため安定して同一母樹の木が生産でき、その香りのお茶が楽しめる

※記載されているのは黄梔香、芝蘭香、玉瀾香、蜜蘭香、杏仁香、姜花香、肉桂香、桂花香、夜来香、茉莉香の10種です。
当店の商品では柚花香は十大香型に含まれていませんが素晴らしい香りです。