2018/04/30 16:55


(写真は文章中の老叢・母樹とは無関係な貢香、茶樹がかなりひねくれてるのが特徴)

鳳凰単叢は、その香りの華やかさ、かぐわしさから花の名前が付けられることが多いお茶です。
十大香型の名前、黄梔香、蜜蘭香、芝蘭香、玉蘭香、杏仁香、桂花香、茉莉香、夜来香、姜花香、肉桂香とこれらを見てもわかるとおりです。
黄梔(クチナシ)、玉蘭(ハクモクレン)、桂花(キンモクセイ)、茉莉(ジャスミン)など素敵な香りですね。

さて、その素敵な花の名前を持つお茶が多い鳳凰単叢ですが、じつは老叢・母樹には変な名前を持つものが有ります。
今回はその中でも特に変な名前を持つ4種の老叢をご紹介しましょう。
ちなみにどれも飲んだことはありません。また当店でも扱ってはおりません。
さすがにこのレベルの老叢・母樹はお高いので、おいそれとは手が出せません…。


さてNo.1。

【No.1 黑蚂蚁】
黑蚂蚁とは、クロアリのことです。
一番手にはゆるめの名前を持ってきました。まだ理解可能な範囲です。
名前の由来も分かりやすく、昔はこの樹にクロアリが巣を作っており、そこから取られたそうです。単純ですね。
クロアリはどこに巣を作っていたのでしょうか?木に「うろ」でも有って、そこにたまった土の中でしょうか。
この木は烏崠山の「字茅」というところに生えています。
樹齢は150年程度ということなので、かなりな老樹ですね。
香型は芝蘭香とのこと。香りは良いのにクロアリ。なかなかにミスマッチです。


次から苦手な方も増えてくるのでは無いでしょうか。

【No.2 蛤古】
蛤古は、古いハマグリではありません。蛙のことなのです。
えー?かえる…?。かえるってどういうことだよ…と思われるかもしれませんが、この茶樹の葉は非常に醜くでこぼこしているそうです。そう、その葉の醜さが蛙の皮膚に似ていると言うことで、この名前が付けられました。
樹齢は150年程度でやはり老樹ですね。
生えている場所は烏崠山の「中坪」のかなり上の方の石壁脚というところ。
香型には分類されておりません。
似たような名前の老叢「蛤古捞」というのも有りますが、こちらは母樹が枯れてしまい挿し木で増やした2代目が残っているようです。



No.3とNo.4はかなり甲乙付けがたいきつい名前です。
心の準備をしておいてください。

【No3. 大蝴蜞】
大蝴蜞、大きい蝴蜞ということですが…蝴蜞はなんとヒルのことです。
ちょっと…それは…どうなの…。いくらなんでもヒルは無いでしょう。
この名前の由来は、この木からお茶を作ると、その茶葉がヒル、しかも大きいヒルに似ているからとのこと。
少し待って頂きたい。単叢の茶葉は香型・品種で違いはあれど、干茶の形はそこまで大きくはぶれないはず。
それでこの名前。うーむ、実物が見てみたくなります。
樹齢は170年。かなりお年寄りの木。
生えている場所は烏崠山「大坪」の後ろ四畦と呼ばれるところです。
これも香型には分類されていないお茶です。
似たような名前の老叢に「蝴蜞叶黄梔香」が有ります。こちらはそのまま黄梔香です。



最後はみんなが嫌いなあのお方。

【No.4 蟑螂翅】
蟑螂翅、そう「ゴキブリの羽」という名前です。
やめてください!ゴキブリが苦手な人だっているんですよ!
名前の由来は茶葉の形と生え方。
まず、茶葉が小さい。…なるほど。
次に、茶葉が薄い。…ふむ。
そして、その葉が枝から生えてる様がゴキブリが羽を広げているように見える、と。
やめて!
なんでわざわざそんな名前を選んだし。
小さくて薄い茶葉なら、もっとかわいらしい名前付けられるでしょうに。
生えているところは、烏崠山の獅頭脚。場所の名前は格好良い。
樹齢はなんと300年以上!すごい老樹ですね。
香型には分類されていません。


さて、変な名前の鳳凰単叢 老叢・母樹を四種ほど紹介して参りました。
こういう老叢・母樹は調査しに来た人が「この木の名前はなんと言いますか?」と聞いたときに適当に付けられてしまう場合も有るようです。
典型的な名前としては「~さんちの~香」とか「~に生えてた」とかそういうのですね。
しかしこの四種は昔から呼ばれてたのでなければ、「なんでそんな名前にしたの…」と聞いてみたくなります。

こういった老叢のお茶は、単株で作られて(その木の茶葉のみで製茶される)、ほとんどがお得意様に売られていきます。
摘む頃か製茶直後にはすでに茶商が買い付けているものも多いとのこと。
しかし、「蛤古」「蟑螂翅」のような変な名前では、さすがに売れないので一般的な「古樹単株」とするか茶商が格好いい・素敵な名前を付けるようです。
現地のお茶屋さんで「すごい高いお茶が出てきたけど、聞いたことの無い名前だぞ?」となったら、No.4の可能性もあるかも?