2021/07/29 14:29


Teamedia様の以下の記事で知ったのですが、鳳凰単叢の標準が省級標準から市級標準に変更になるそうです。 これに沿って、今まで、現状、今後を軽く説明したいと思います。



前提知識として、以下を覚えておいてください。

  • 広東省の東部に潮州市、梅州市、汕頭市、揭陽市、汕尾市がある。
  • おおまかに潮州市を中心に北に梅州市、南に汕頭市、西に揭陽市。掲揚市のさらに南西に汕尾市。
  • 潮州市の中に潮安区(元の潮安県)と饒平県がある。
  • 潮安区の中に鳳凰鎮、饒平県の中に嶺頭村がある。


今までの鳳凰単叢と他産地の単叢

1960-1990年代頃、潮州市内の特に饒平県で茶畑を増やしていました。この頃は鳳凰単叢だけでは無く、福建省から梅占、奇蘭などの優良品種を持ってきています。その中で嶺頭単叢(品種としての嶺頭単叢、いわゆる白葉)を選抜し優良国家品種として登録したり、鳳凰鎮の方では獅頭黄梔香や烏葉、八仙などを品種化していました。
2000年代になると中国は農村への投資をさらに加速し、特産品の育成を行っていきます。農村と一口に言っても、元から特産品を持っているところと、今までは特にメジャーな特産物が無い農村では対応が変わってきます。

潮州市としては農村部の対応の1つとして、市内の既存特産品「鳳凰単叢」を農村部、主に潮安区(当時潮安県)の山側、饒平県で増産していきます(梅占、奇蘭などは改植された)。広東省として行ったか不明ですが、省の同じ東部地域として近隣の梅州市、汕尾市にも広まっていきます(ここ伏線)。 

特産品としてはブランド化も必要で、当初は先の嶺頭単叢の流れが強く嶺頭単叢を先にブランド化しようとしていたようです。そのため、まず2002年に嶺頭単叢の省級標準が出来ています。その後、鳳凰単叢のブランド化を進める方向で省級標準を2010年に策定します(これが今回廃止される標準です)。鳳凰単叢の省級標準のポイントは、品種(鳳凰水仙の実生またはそれらの挿し木・接ぎ木)、製法、そして産地です。産地は潮州市内に限定されます。


現状の鳳凰単叢

さて特産品としての「鳳凰単叢」は省級標準で潮州市内と限定されたので、他の産地は別の名前で売らなければなりません。概ね産地名+単叢の形式で、梅州市のは興寧単叢(兴宁单丛)、汕尾市のは南万単叢(南万单丛)というのが有ります。

日本ではかなりの中国茶マニアでも知らなさそうなこれらの単叢、中国でも同様に知られていません。知られていないとどうなるかというと、現在のタオバオ、京東、微店などのネットショップで探されもしない=全く売れないという状況になります。そうすると手っ取り早く売るために「鳳凰単叢」の名前を付けて売り出されることになるのです。

こうなると潮州市の茶業界が頑張って築いた鳳凰単叢のブランドが、他の産地にただ乗りされ、売れるはずだった市内の鳳凰単叢が売れなくなってしまいます。

しかも新興産地は投資が大きく、整備された茶園、大規模な製茶工場、低価格な労働力(特に未開発の農村に作られるため初期は労働力が安い)などで、品質はともかく価格・市場占有で優位に立ちやすい状況にあります。

そうなると潮州市内でも鳳凰鎮の低山・新興産地の農家への影響が大きくなります。鳳凰鎮の低山・新興産地限定なのは理由があり、

  • 生産品種がかぶる
  • 品質・価格帯がかぶる

からです。

生産品種は、低山、新興産地、他産地も苗で提供されるものを大規模に植えるため品種化されたものの中の人気品種を植えることになりますが、これは潮州市内でも他産地でも同じ品種になります(嶺頭単叢(白葉・蜜蘭香)、鴨屎香、鋸剁仔(杏仁香)など。今後は八仙も出てくるかも?)。鳳凰鎮の高山・中山は知人・親戚の農家にもらった枝から増やしたりするものが多く、先に挙げた品種の生産はあっても、他の品種の生産も多数有り影響は限定的です。

品質・価格帯は、大規模生産のため特定の品種特徴のみを出す製茶、かまぼこ形茶園、産地の標高による環境が同程度などの理由から低山、潮州市内新興産地、他産地で同程度の品質になりそのため価格帯も同一帯になります。高山・中山は品質が違うため価格帯もかぶらず、これまた影響は大きくありません。

このような理由から主に潮州市内の低山・新興産地の鳳凰単叢農家・生産企業保護のために、今回の市級標準の策定、省級標準の廃止が行われるのです。


今後の鳳凰単叢

省級標準でも潮州市内と限定されていたので潮州市の生産地は保護されているので、市級標準にする意味は無いのでは?と思われる方も多いでしょう。しかし世の中金次第であり、お金による影響力を持ってくると政治への介入も可能になってきます。現在は力が弱い他産地ですが、大企業が出てきてロビー活動を行い省の農業部門にかけあい生産地の範囲を拡大する、などという事も起こりかねません。(金駿眉が業界標準(生産地域の範囲が狭く高山限定、春茶のみ)のままで省級標準すらできないのもそういう理由が大きいのでしょう。)

今回、鳳凰単叢は市級標準とすることで潮州市が管理することになるため、他産地がいくら力を付けても範囲を拡大することは無いはずです。

さらに鳳凰単叢シールを作って、ブランド化を推進していくようです。このブランドシールは他の茶種・茶産地で行っているところもあり、QRコードなどで生産者・生産量を紐付けて管理・消費者への情報提供をしていたりもします。

ただこのシール、使おうとすると費用がそこそこかかるようで、当初は通販やお土産品主体のお店が遠方の消費者に向けて安心を与えるためのものとして利用されていくと思われます(もちろんコストは販売価格に上乗せされる)。

また高山、中山の農家はすでに売り先を確保している事が多いためシールで安心を与える必要が無く、付けないことが多いでしょう。

市単位だと範囲が広いため全ての生産者・生産量及び卸先・販売量を管理してシールのQRコードと連携していくのはすぐには無理でしょうが、当然市政府としては考えていると思います。早ければ数年後には実施しているかもしれませんね。

ただ潮州市・汕頭市などの伝統的な生産者・販売者は、昔ながらの認識で鳳凰よりも烏崠の方がブランド的に上と考えているため「シール付けて高く売るなら烏崠単叢にしましょう」としている例も現在有ります。店頭で説明しながらの販売ならそれでもいいと思いますが、通販だと名前が分散し検索も分かっている人向けになってしまうのでどうかと思います。

ちなみにタオバオ、京東などで烏崠単叢を検索しても大量に出てきます。品質はピンキリなのでご注意を。

そして嶺頭単叢ですが、こちらはこのまま品種(白葉・蜜蘭香)としても産地としても鳳凰単叢の一部として、緩やかに消えていくのだと思います。「鳳凰単叢の産地の一つとして嶺頭村」となり、「鳳凰単叢の品種として白葉・蜜蘭香(正式な国家品種名は嶺頭単叢)」となっていくと私は想像しています。


と言うわけで、仕入れられる状況になっても当店の鳳凰単叢にはシールは付きませんがご容赦の程を。
嶺頭単叢は名前変えるかもしれませんが、現状はそのままで考えてます。
早く現地に行けるようになりますように。